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エムブリヲ奇譚/山白朝子 ★★★☆☆

旅人たちは各地の案内をする道中記を手に名所旧跡を訪ね歩く。『道中旅鏡』の作者・和泉蝋庵はどんな本でも紹介されていない土地を求め、風光明媚な温泉や古刹の噂を聞いては旅をしていた。しかし実際にそれらがあった試しはない。その理由は蝋庵の迷い癖にある。仲間とともに辿りつく場所は、極楽のごとき温泉地かこの世の地獄か。

<このような理不尽には慣れっこです>

「エムブリヲ奇譚」
作家・和泉蝋庵の荷物持ちである私は、ある夜、小川の岸辺で「エムブリヲ」を拾って持ち帰る。
私は「エムブリヲ」で金儲けをしようと見世物小屋を始め、それが大評判に。
調子を良くした私はますます賭け事にはまって、借金が膨らんでしまい・・・。

「エムブリヲ」という言葉を使いたかっただけでは?と思うくらい、普通の怪談。
「ラピスラズリ幻想」
書物問屋に住み込みで働いている輪は、ある日、和泉蝋庵の旅に付き合うことになる。
不思議な村にたどり着き、病で死に直面した少年を持っていた薬で助けたところ、老婆から美しい青色の石をもらう。
そして老婆から、その石を死ぬまでずっと身に付けておくこと、そして決して自ら死を選んではいけないと忠告されるのだが・・・。

繰り返しの人生を歩む輪の結末を、あの一行で済ましてしまうというのがなんとも。
「湯煙事変」
和泉蝋庵と荷物持ちの私がたどり着いた村には、入ると戻ってこられなくなる温泉があるという。
試しに私が夜に入ってみると、湯煙の向こうにずっと昔に死んだはずの人物たちが現れ始める。

「〆」
私と和泉蝋庵が訪れた茶屋で一匹の鶏と出会う。
私たちの後をずっとついて来る鶏を「小豆」と名付け、一緒に旅をすることに。
ある日、私たちは家やそこで出される食べ物が人間の顔に見える漁村に迷い込んでしまう。

これはスゴイ。意表を突く残酷性に参りました。
「あるはずのない橋」
旅の途中で珍しい刎橋を見かけた私たちは、そのことを村長の家にいる老婆に話すと、その刎橋は四十年も昔に落ちてしまった「あるはずのない橋」だという。
そして、橋の落下で息子を亡くした老婆に、橋まで連れていって欲しいと頼まれる。

「顔無し峠」
道に迷った私たちは、村民すべてが私のことを「喪吉」だと勘違いする集落に連れていかれる。
本物の喪吉は、一年前に谷川に落ちて流されたらしいのだが・・・。

「地獄」
山道で山賊一家に襲われた私は薄暗い穴の底へと閉じ込められてしまう。
そこには若い男女と私の3人だけ。
山賊一家はときどき干し肉を与えてくれたが、ある日、一人だけ助けてやると言われ・・・。

「SEVEN ROOMS」の理不尽さやグロさは、ラストで一瞬にして切なさへと変わったのになぁ。似た設定でこちらはヒネリなし。残念。
「櫛を拾ってはならぬ」
和泉蝋庵が新しく荷物持ちに雇った青年は怖い話が大好きだといい、毎晩2人で怪談を語り合っていた。
旅の途中、青年が櫛を無くした老女と出会ったといい、蝋庵は「落ちた櫛はすぐに拾ってはいけない」と忠告する。
その数日後、青年の様子がおかしくなり、蝋庵の抜け毛が迷惑だと激高し始める。

和泉蝋庵の「迷い癖がヒドイだけで決して変人ではない」という部分が楽しめた。
「「さあ、行こう」と少年が言った」
地主に嫁いだ「私」は、土蔵で道に迷ったという少年と出会い、読み書きを教えてもらうことになる。
夫やその両親から冷遇されていた「私」が唯一心が休まる時間だったが、夫たちに気付かれてしまい・・・。

オチがいいです。

死者のための音楽/山白朝子 ★★★★☆

「長い旅のはじまり」
ある日、腹に小刀が刺さった少女が寺を訪ね、旅の途中に襲われ、父親が殺されたと和尚に語る。少女は回復後、しばらくして妊娠に気付くのだが、全く思い当る節がない・・・。
「井戸を下りる」
幸太郎は、高利貸しである冷徹な父を怒らせてしまい、慌てて井戸の中に隠れることに。そこには、美しい女性が暮らしていた。日が経つごとに、彼女に惹かれていく幸太郎。しかし、彼には父が決めた縁談が待っていた・・・。
「黄金工場」
工場に勤める千絵ねえちゃんに会いにいこうと、近道である森の中を歩いていた僕。工場の廃液が貯められている場所の近くで、黄金のコガネムシを拾う。母にコガネムシを見咎められ、拾った場所まで案内すると、他にも様々な昆虫が黄金に変化しているのを発見する・・・。
「未完の像」
仏師を訪ねてきた貧しい身なりの少女。仏像を彫りたいと頼む少女は、近くの木片で見事な小鳥を彫る。師匠にはその気がないことを少女に伝えると、なんと弟子の私に教えてくれと言う。彼女は罪人で、捕まる前に仏像を一体、完成させたいらしい・・・。
「鬼物語」
昔、戦の犠牲者から鎧刀を剥ぎ取り、売り払った金で花見に興じていた村人たちが、何者かに殺された。その後、その「呪われた村」では、山に入った子供たちの首が川に流される事件も起き、村人たちは熊の仕業だと話し合い、山を焼き払う計画を立てる。しかし、花見の事件で1人だけ生き残った祖父は、「あれは鬼の仕業だ」と怯えるのだった・・・。
「鳥とファフロッキーズ現象について」
ある日、屋根に引っ掛かっている大きな鳥を発見した父と私は、その鳥を家で飼うことにした。鳥は不思議な力を持っていて、私や父が欲しいと思っているものを取ってきてくれるのだ。そんな中、父が銃で撃たれ殺された。鳥はあまり私の前に姿を現さなくなったけれど、相変わらず私が欲しいものを届けてくれた・・・。
「死者のための音楽」
小さい頃から耳が遠かった母は、昔、川に落ちた時に聞こえた音楽に魅了された。その後、その曲を必死に探したけれど、どこにも見つからなかった。でも、父の運転する車で事故に遭ったあの日、母は再びその音楽に包まれたのだった・・・。


<何かよくないことが、これから起こるぞ>

有名作家が別名義で書いたという短編集。
読み始めると、その正体はだいたい予想がつきます。
「鳥とファフロッキーズ現象について」なんて、そのままでしたから。
『銃とチョコレート』でも気になりましたが、文章に無意味なひらがなが多いのですよね。
両方とも、装丁は祖父江さんだし。
(この装丁も非常に凝っていて、栞に一瞬、ギャーっとなりました。)

好みだったのは、「黄金工場」「鳥とファフロッキーズ現象について」
「黄金工場」はゾクゾクする展開で、「鳥と~」のラストには感動しました。
どの話も心に沁みるような言葉や表現が溢れていて、余韻が半端ではありません。
乙一作品のコワ切なさが好きな方には、絶対オススメです。

ヒトコト(真相に触れています)

以下、真相に触れています。OKな方は【】を反転(ドラッグ)させてご覧下さい。
「長い旅のはじまり」輪廻はともかく、小刀があーだこーだで妊娠したってのは、少し下世話に感じた。他になかったのかな。
「井戸を下りる」井戸の女性は幸太郎の母だと予想していた。昔一緒に遊んでいた子供が、普通に男の子だと思ってたから。
「未完の像」小鳥に命を吹き込むことができる、という伏線があったのに、男の子にも驚いたし、処刑されたのが身代わりだったことにも気付かなかった。
「黄金工場」お父さんの浮気相手に驚いた。千絵ねえちゃんのあの台詞が切ない・・・。唯一、飼い犬が無事で良かった。
「鬼物語」双子の話から、祖父の話、母の話へと展開していく構成が好き。とにかく、鬼が怖い。
「鳥とファフロッキーズ現象について」ラストの画が目に浮かぶよう。動物モノには弱い。
「死者のための音楽」これも幸せの形なんだな、とじ~んときた。
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 2005年8月~

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